原発のない社会をめざして 救済に誠意を示せ 原発と賠償

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救済に誠意を示せ 原発と賠償

今回は、中日新聞の社説をご紹介いたします。以下は転載です。








【救済に誠意を示せ 原発と賠償】
中日新聞 2013年5月27日

原発事故で被災した福島県浪江町は、町が住民の代理で東電に慰謝料増額を申し立てる。個別交渉の限界を見かねた。賠償には誠意を示さねばならない。

「何かもうむなしくて、情けなくって…」鈴木静子さん(76)は何度もこの言葉を繰り返した。浪江町の家を離れ、二本松市内にある仮設住宅で暮らすようになってまもなく二年がたとうとしている。

3・11の原発震災では「全町避難」の指示に高校生の孫と二人、着の身着のまま逃げた。直前に夫をみとったばかりで、二重の苦しみの始まりだった。

■「無」の時間が流れる

若いころにかかった結核の長い療養生活が看護師の道を選ばせた。県立病院で定年まで働いた後、訪問看護にかかわってきた。苦労して建て直した自宅の庭や池が懐かしい。自分で紡いだ糸でセーターを編もうと山蚕を飼ったり、ランを育てたりしていた。残り少ない人生の楽しみだった。

「だけど、仮設住宅では何もする気がおこらない。無の時間が流れていくのがたまらない」知らない者同士で入居した仮設住宅は隣の物音が聞こえる。狭い部屋にこもり、足が急に衰える人、酒におぼれる人、孤独死や自殺も相次いでいる。

三月に国は再び避難区域を見直した。鈴木さんの家の周りなど町の一部は「避難指示解除準備区域」となった。日中いつでも帰れるとはいうものの、水などインフラは復旧していない。

「トイレは車で五分の役場まで行かなくちゃいけない。町は切り刻まれて検問所だらけ。私たちにどんな生活をしろというの」。考えだすと夜も眠れなくなり、安定剤を手放せない。

■個別救済には限界

原発事故は続いている。時間がたつほどに、苦しみは軽くなるどころか強くなっていく。

今月末、浪江町の馬場有町長は東電との賠償交渉のため「原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)」に申し立てる。交渉の負担を軽くするために、弁護士ら法律家の仲介委員が東電との間に入って和解を進める政府機関だ。

賠償の交渉には東電と直接したり、裁判を起こす方法もある。しかし、多くの被災者は落ち着かない生活のために不満があっても余裕や余力がない。ADRへの申し立てですら、スタートした二〇一一年九月からの一年半で約六千四百件、一万三千人にとどまる。賠償の対象とされている避難区域の十六万人の一割にもとどかない。

浪江町が決断した集団申し立ては、新しい可能性を求めての異議申し立ての方法だ。個別救済の限界を集団の力で乗り越えようとしている。町が住民の代理者として引き受けることで、住民は参加しやすくなる。

長引く避難生活で、多くの人は余分な出費を強いられている。今支払われている一人当たり月額約十万円の慰謝料は、膨らむ生活費の補填(ほてん)も含まれていて、純粋な慰謝料にはなっていないのだ。

使えなくなった家屋や田畑の損害額認定などは、被災者一人一人の事情が左右するが、精神的苦痛の賠償はだれもが共有できる問題だ。全国に分かれて避難する約二万人の町民に町が委任状を送ったところ、二週間で約半数が参加を表明した。

しかし、ADRにも課題がある。仲介する法律家の数が足りず、審理は遅れ、和解に進んだのは申し立ての半分以下だ。

東電は和解に協力的ではない。仲介委員が示す和解案には強制力がないため、拒絶するケースが目立つ。合意できなければ、被災者は裁判に訴えるしかなくなる。ADRは仲裁や調停の手続きだから、和解案を拒否することはできる。だが、住民側に落ち度はないのだ。「不服なら裁判を」と言わんばかりの東電の態度は誠実さに欠ける。救済を遅らせるばかりだ。

■被災者の側に立て

今国会に賠償を受ける被災者の権利を制限するような法案が、政府から出されている。民法が定める請求権の時効の中断に関する特例法案である。

通常は三年で消滅してしまう請求権の時効を、原発事故に適用すれば、来年三月に期限が来る。法案は救済の対象としてADRに申し立て、和解が打ち切りになった場合などに限っている。原発事故は経験がない。将来にわたる被害も予測が立たない。法にはむしろ、原発の損害賠償請求には時効をかけないと明記すべきだ。

原発事故で被害にあった人たちの生活保障を定めた「被災者支援法」も昨年の成立以降、具体策は決まっていない。遅々とした賠償交渉。浪江町は立ち上がったが、被災者にもっと寄り添った救済を示すべきだ。

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