原発のない社会をめざして 原発コスト 国民意識に比例

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原発コスト 国民意識に比例

朝日新聞のコラム「あすを探る」に、慶応大学の教授で歴史社会学者の小熊英二氏が、非常に素晴らしい意見を寄せていましたのでご紹介いたします。以下は…転載です。







【原発コスト 国民意識に比例】
朝日新聞 4月26日

原発の再稼働の是非が議論されている。そこで欠けがちなのは,原発のコストは《社会のリスク感》によって変化するという視点である。原子力発電のコストは,実は大部分が「安全コスト」である。原発は原理としてはきわめて単純で,お湯を沸かしてタービンを回す熱源が核反応であるに過ぎない。事故が起きてもかまわない,廃棄物は野積みでいい,というのであれば限りなく安い。安全に運転するために,複雑な技術や防護建設のコストがかかるのである。

結局,そのコストは「安全にどこまで配慮するか」にかかっている。耐震性や防護はぎりぎりでいい,多少の放射能漏れは気にしない,というのならコストは安くなる。それでは済まないというなら高くなる。通常,原発のコストは,ウラン価格や建設費,稼働率などをもとに計算する。しかしそれは固定的なものではない。安全への配慮が必要になればなるほど,建設費や廃棄物処理費は高くなり,稼働率は下がる。

しかも安全コストは,専門家の独断では決まらない。人びとが安全やリスクに敏感になり,人権意識が浸透すれば高くなる。事故の保険金や補償,立地自治体への補助金や説得コストも同様で,説得が必要な範囲もリスク感の浸透に伴って拡大する。ならば原発のコストは,たとえ一時的なゆり戻しがあったとしても,長期的にみれば,上がることはあっても下がることはない。下がるとすれば,人々のリスク感,安全意識,人権意識が低下し,専門家や政府の権威が強まったばあいだけである。

つまり原発のコストは,純粋に経済学的なものではなく,社会状態の関数といえる。これから原発を作ろうという国は,政府の権威が強く,国民の安全意識と人権意識,発言力が低いという認識に立っていることになる。しかしそういう国も,長期的にはコストの上昇を避けられまい。

ウランの国際価格も同様である。現在の価格は,産出国の労働者や鉱山周辺住民の,現時点の人権状況と安全意識を前提にしている。この観点では長期的には高くはなっても下がりはしない。輸送船や輸送トラックが1回でも事故やテロにあったら,輸送コストもはねあがる。

さらに原発は,社会変動リスクに弱い。建設に大規模な初期投資を要する原発は,30年ほどは安定的に運転しないと投資が回収できない。その間は電力需要が伸びつづけ,電力価格が安定しており,稼働率が高く,事故が起きないことが必要である。経済と人口が右肩上がりで,国策として電力価格を安定させられる権威主義国家なら可能かもしれない。だがそれとて,経済が停滞するか,自由化や民主化が進めば困難になる。

日本ではすでに1990年代末から,原発はほとんど増えていない。あいつぐ事故と稼働率低下にくわえ,経済停滞と省エネ技術の進歩で,電力需要が低下しているからだ。そこへ電力自由化の波と,福島第1原発事故がやってきた。もはや原発には,どう考えても将来性はない。

原発なしで電力供給が足りるかは議論がある。たしかなのは,再稼働せねば電力会社が短期的には経営難になることである。大規模投資をした施設が維持費と廃炉費用だけかかる不良資産になってしまう。だから再稼働したい,耐用年数も延長して永遠に動かしたい,建設中のものも完成させて営業運転したい,という理屈は分かる。

電力会社に融資した銀行,電力株を買った保険会社,原子炉製造施設に投資したメーカー,国策として推進してきた責任を問われたくない官庁なども「いまさら止められない」と考えるだろう。だがこれは,『フクシマ』後のリスク感とコストに照らせば,展望のない事業にさらに金をつぎこむ無策にすぎず,経済合理性などない。その金が国民の税金や預金であるに至っては言語道断である。もはや残された道は,「勇気ある撤退」のほかはない。これ以上傷口を広げないために,各方面,わけても政治の英断を望む。

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